行列のできる起業・経営支援教えます
―相談に答えを出す“小出方式”全国に広がる―

静岡県富士市の起業と企業経営のサポートセンター、「富士市産業支援センターf-Biz(エフビズ)」がいま、全国の自治体や金融機関関係者などから注目されている。オープンしてからおよそ6年。センター長を務めている小出宗昭氏の、革命的とも言える運営の方式で大きな成果を挙げているからだ。
すでに幾つかの信用金庫や自治体がf-Bizに学び、同様の方式による地域産業支援を始めている。そして、経済産業省が今年度、f-Bizすなわち小出方式をモデルにした相談窓口を47都道府県に設置する。
f-Bizは従来の一般的な産業支援のやり方と何が違うのか。小出氏に聞いた。
(聞き手:本誌編集長 登坂和洋)
4つの支援施設を立ち上げ
― 富士市産業支援センターf-Biz(エフビズ)の開設は2008年夏。運営に関わるようになったきっかけは?
小出 私は静岡銀行に勤めていました。2001年、41歳の時に銀行から、静岡県がつくった創業支援施設「SOHOしずおか」の立ち上げと運営を指示されました。それまでは7年半、銀行内でM&Aのアドバイザー業務に従事していました。SOHOしずおかでのインキュベーション業務が非常にうまくいって全国から注目され、結局そこのマネージャーを6年半やりました。3年目には平行して、静岡市がつくった「静岡市産学交流センター」を始動させ、その後の4年間は両施設のマネジメントを兼務していました。
次に、これも銀行からの出向で、浜松市の「はままつ産業創造センター」(現・浜松地域イノベーション推進機構)の立ち上げと運営に関わりました。ここには1年間居ました。結局、創業支援・中小企業支援施設への出向は7年半に及びました。
その後独立して、富士市産業支援センターf-Bizの運営を受託し、センター長に就任し今日に至っています。きっかけは富士市から相談があったことです。昭和50年代前半くらいまで、富士市の工業出荷額は、県内トップの浜松市に肩を並べるくらいの水準でしたが、6番目まで下がっていました。何とかしなくてはということで、中小企業支援施設の構想がでて、全国の中小企業支援センターを視察したらしいのです。そうしたら、箱は立派だけれど相談者が来ていないことに気が付いたんです。当然ながら成果も出ていない。この事業はハードではなくてソフトだな、そしてソフトとは「人」だと気が付いたんですね。そこで、誰かいないかと探し、富士市生まれの私にたどり着いたというわけです。富士市は5回私を口説きに来ました、最後に市長さんまで来られた。
私は銀行を辞める気はさらさらなかったですが、中西勝則頭取に相談してみました。当然、断るようにと言われると思っていたら、「やってみたらどうか」と言う。また、私のことをかわいがってくれていた前会長(当時)神谷聰一郎氏も「静岡銀行の行員が、1つの市の産業振興においてそこまで頼りにされるのは銀行にとっても非常に名誉なことだ」と言う。銀行も応援してくれるのだったらと、2008年6月に思い切って退職し、7月に小さな会社(株式会社イドム)をつくり、スタートしました。
― 2013年8月に「f-Biz egg」という創業のワンストップセンターを併設しました。
小出 そうです。f-Bizは破格にうまくいっている相談センターだと思います。相談件数は大体月間200件。市としては、地域産業活性化のためにf-Bizに懸けてみようと考えたようです。市から、創業に力を入れてもらいたいというオファーがありました。当初出てきた案はビジネスインキュベーション施設ですが、これには私は断固反対しました。インキュベーションはニーズがないから絶対だめだと。私はSOHOしずおかで6年半見てきましたが、インキュベーション施設の創業支援は非常に効率が悪い。限られた起業家しか育てられない。それよりも相談機能を強化して、地域の中でチャレンジしたいと思っている人を発掘し、効果的にサポートして次々と起業させ、それを成功させた方がいい。そう申し上げました。そこで、相談機能を強化した形での創業支援拠点を別のフロアにつくることになりました。
成果とは結果を出すこと
― f-Bizはなぜ注目されるのですか。産業支援施設にとって「成果」とは何ですか。
小出 単純明快ですよ。それぞれの相談に対して明確な答えが出せるかどうかです。地域の中小企業者・小規模事業者は――大企業だって本当はそうなんですけど――どこも経営的な課題、悩み、問題点を抱えています。100%の人たちが今よりもよくありたいと思っています。とすれば、われわれ支援センターがなすべきことはその悩みを受け入れて、よくする方向にもっていくこと、つまり課題解決です。これは明らかにビジネスコンサルティングです。ビジネスコンサルだから求められているのは結果なんです。
よくこの世界の人たちは、成果の基準が曖昧だとか言うけれど、とんでもないと思います。公の産業支援って本当にアマチュアばかりの世界です。本当のプロフェッショナルがほとんどいないんですね。私はこの世界に入った当時、あまりの低パフォーマンスぶりに驚きました。よく支援センターの人たちは「みんな一生懸命やってます」と言います。民間の感覚なら、一生懸命やっているならそれなりに成果が見えるはずです。中小企業・小規模事業所の経営者はヒト、モノ、カネ、全てに課題を抱えています。そういった制約条件の中で流れを変えるために何が必要かといったら、知恵なんです。知恵を出せるコンサルティングってかなりハイレベルです。MBA的手法をとったって、そんな知恵出ませんからね。だから、プロ、結果が出せるコンサルタントが必要なんです。
資格、経験は関係ない
― そういうコンサルタントというか、支援センターのアドバイザーに必要なのは経験ですか。
小出 必要なのは資質です。適性は3つ。ビジネスセンスが高いこと、コミュニケーション能力が高いこと、そして情熱を持っていることです。資格や経験は関係ありません。大企業で凄腕プロジェクトマネージャーっていますよね。この人にやらせると何でもうまくいくという・・・。こういう人はすぐできます。あるいは、日本初とも思えるようなビジネスモデルを構築しそれを成功させた起業家。こういう人もコンサルで結果を出せます。
金融機関で言えば、トップの昇格グループの人材。こういった人間だったらわれわれのような支援センターでコンサルができるんですね。このセンターには私を含め11人のアドバイザーがいます。私以外の10人は、私が全部スカウトした人間です。ほとんどがこの世界での経験がない人です。だけど成果を挙げます。それはなぜかというと適性だから。
しかし、全国のほとんど全ての公的産業支援施設は、そういったことも分からないで人を選んでいます。よく、資格とか経験って言うじゃないですか。しかし、私は、「“資格”とか“経験”で採用したアドバイザー・相談員が成果を出していないでしょう」ってはっきり言います。採用、人選を大幅に見直すべきなんです。でもその見直しができないんですよ、既存の公的セクターは。
― アドバイザーに求められる適性のうちビジネスセンスとはどんなことですか。
小出 ビジネスセンスの高い人たちは、圧倒的に情報量がある人です。ここで言う情報量とは、情報感度が高いとか情報収集能力が高いということ。例えばコンビニエンスストアに行って、「何これ」って新しいこと・ものに気が付く人。その情報を持ち帰っていろいろ調べて、生きた知識に転換できる人。また、毎年、年末になるとメディアがヒット商品番付なんて発表しますね。「去年のヒット商品の中であなたが一番印象に残っているものについて、ヒットした要因を説明してください」と言われたとき、パッと答えられるかどうかなんです。
― コミュニケーション能力はビジネスの基本ですね。
小出 絶対的に大事です。相手の話を徹底的に聞くことが、結果的に問題発見能力につながると思います。相手から引き出せますから。
多様な分野の専門家は不要
― 相談員の適性の3条件は分かりましたが、その他注意すべき点はありますか。
小出 よく有識者が「中小企業の業種は多様で、支援ニーズも多様化しているから、多様な専門性を持つ人たちをたくさんそろえなければいけない」と言います。もう一つ。浜松市や富士市もそうですが、製造業が集積している地域では技術の相談が多いのではないかと言われてきました。いずれも全くのうそです。私は、性格の違う3つの都市で4つの支援機関のマネジメントをやってきましたが、来る相談の8割から9割は同じ悩みです。何かと言うと、売り上げの問題、モノが売れないという相談なんです。
多くの支援施設は、大企業の技術畑を定年退職したような人を多く採用し、相談やコーディネート業務に当たらせていますが、企業の課題解決という「成果」「結果」をほとんど出せていません。それに何より、全国どこを見ても、閑古鳥が鳴いています。なぜかというと、魅力がないから。なぜ魅力がないかというと成果を出していないから。明らかに機能不全を起こしています。だけどそれをきちんと指摘する人がいなかった。
― f-Bizは、小出さんの考える理想的な支援施設を突き詰めたわけですね。
小出 そうです。公的な中小企業支援施設の低パフォーマンス、機能不全が全国的に大問題になっている中で、私の考える地域の産業支援施設の在り方を集大成できたのがこのf-Bizです。ここは全て自分で絵を描いて一から自分で立ち上げたし、チーム構成だって全部自分の采配でできました、私が受託してますから。最初の2008年8月の時点から、公の中小企業支援の成功モデルをつくろうと思っていました。最初からそういう目標があり、できると思っていました。
経産省、“小出方式”全国展開
― 経済産業省が今年度、全国47都道府県に設置する中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業「よろず支援拠点」はf-Biz、すなわち“小出方式”がモデルとのことです。
小出 経済産業省の中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業「よろず支援拠点」はf-Bizをモデルとしていることを明確にうたっていますが、これはある面、当然のことだったと思います。当センターの初期の段階から、経済産業省はこれが一つの目指すべき像だと見ていましたから。
論点は、当センターのノウハウを横展開できるかどうかということでした。こういうことです。このf-Bizは、強烈なキャラクターの小出がいて、極めて属人的なノウハウで成り立っているのではないかと言われ続けてきました。これは、私が静岡市で「SOHOしずおか」と「静岡市産学交流センター」をマネジメントしていた時代からずっと言われていたことです。だから普遍性はないという議論です。私はそうじゃないと思っていました。適性がある人間だったらできるということは分かってはいたんですが、それを実証できる場がなかったわけです。
f-Bizはオープン当初から、東京の巣鴨信用金庫から5人の職員を受け入れてトレーニングしました。全く経験のない人間ですよ。私がリクエストしたのは、各世代のトップ昇格組を出してほしいということ。トレーニングをして、彼らが巣鴨信用金庫に帰って、同じようなコンサルのステーションをつくりました。「S-Biz」って言うんです。
ほぼ同時期に東京・豊島区から中小企業支援ノウハウ導入の依頼がありました。同区が当センターのノウハウで新たな支援センターをつくりたいという。私は、「巣鴨信用金庫に、うちでトレーニングした職員がいるから、そこに区の職員を出向させて学んだらどうか」とお勧めしました。それを実行して2010年に始まったのが「としまビジネスサポートセンター」です。それが非常にうまくいったと言われていて、経済産業省が何回も検証作業に行ったようです。それで、これなら国の事業として全国展開できるなと考えたようです。そのように経済産業省から聞きました。
愛知県岡崎市も昨年10月、岡崎ビジネスサポートセンター「Oka-Biz」をオープンしました。同市のスタッフも、うちでOJTで徹底的にトレーニングしました。実は今も東京の信用金庫と愛知県の信用金庫の職員が研修に来ています。つまり、われわれf-Bizをモデルにした支援拠点を全国に普及させることは可能だということです。
いろいろなところから依頼されて、私がここ3年ぐらいで本を3冊出版しているので、自分たちのやっているノウハウを体系化できたと思います。要するにマニュアルですが、それはそれとして、こういった現場でのやりとりの中からうまく伝えていくのが一番効き目があると思います。
決算書を見ない
― 事前に小出さんについての資料を拝見して一番印象深かったのは、決算書を見ないでとことん話を聞くということでした。
小出 先ほど相談の8割から9割が売り上げの問題だと言いました。当センターの場合、88%です。決算書を突っついて売り上げが上がりますか。これが決算書を見ない最大の理由です。もう一つ理由があります。銀行員だったからよく分かりますが、決算書上で分かるような問題点は、債権者たる金融機関が思いっ切り指摘してますよ、相手のプライドを粉々にするまで。決算書から読み取れるような問題点は、実は誰にでも分かることなんです。
既存の産業支援機関は決算書を見ながら、ああだこうだと言うでしょう。言われてる中小企業の社長にしてみれば、「そんなの分かってる」っていう話ばっかりです。困っているから相談に来ているのです。だから決算書をつつき出す人は、支援機関の役割が根本的に分かっていない。相手の問題解決にもつながらない。売り上げを上げるのがミッションなのに、経営者のモチベーションが下がるだけですよ。
プロのコーディネーターをどう確保する?
― 産業支援と産学(官)連携はかなり重なっていますが、産学連携へのアドバイスをお願いします。
小出 大学の研究をうまく使ってビジネスにしていくことは絶対に必要です。事業化できるかどうかは「つなぎ役」次第です。コーディネーターの存在はすごく重要です。では、産学官連携のコーディネーターにはどんな適性が必要か。あるテーマ、素材があるとき、大事なのは「ビジネスとして面白いか、面白くないか」という感覚だと思います。言い換えると、お金の臭いがするかしないか、この技術をどことくっつけるとお金になるのか、といった感覚です。産学官連携のコーディネーターに欠けているのはそういう感覚、ビジネスセンスです。もちろん、高いコミュニケーション能力と情熱も必要です。
トップクラスのプロのコーディネーターをどうすれば確保できるのか。プロフェッショナルとしてふさわしい処遇、ポジションが必要です。私は、地域活性化のコーディネーターづくりのセミナーの講師もやりますが、びっくりするぐらいに優秀な人たちが参加しています。外資系企業の30代から40代の人、あるいは日本の大企業の中堅どころの人たちもいます。「あなたたち、何でこんなところに来ているの」って聞くと、「こういう地域産業活性化をやりたい」って言います。「やればいいじゃない」と言うと、「ポジションがないんです」と。こういう人たちは産学官連携の世界でも大きな成果を出せる人材なのにもったいないですね。つまり、ポジションがあり、そういう処遇が保証されるなら彼らは来ます。そういう流れに持っていくことが大切です。プロなんだからプロの仕事をする。年収一千何百万円でもいいですよ。ただし成果主義。ここが大事です。成果、つまり事業化にまで導きビジネスとして成功させるという「結果」を出して初めてプロと呼べるからです。
以上の抜粋もとは
https://sangakukan.jp/journal/journal_contents/2014/04/articles/1404-02-4/1404-02-4_article.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■個別相談 http://bit.ly/1fvVpLD
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■成功事例【新作追加】 http://bit.ly/xEBlIn
■最新情報はメルマガで http://bit.ly/x0iCND
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■本のアマゾンレビュー http://amzn.to/19sX8i1
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━